【ほぼ全文】二作同時上演の挑戦!岡本圭人&岡本健一『Le Fils 息子』ゲネプロレポート

2024年4月9日(火)に東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて舞台『Le Fils(ル・フィス) 息子』が開幕。前日に公開ゲネプロと会見が行われ、主演の岡本圭人のほか、岡本健一、若村麻由美、ラディスラス・ショラー(演出)が登壇した。

本作は、フランス演劇界を牽引する劇作家フロリアン・ゼレールが『Le Père(ラ・ペール) 父』、『La Mère(ラ・メール) 母』と共に家族三部作として書いた戯曲。フランス演劇界で最高の栄誉とされるモリエール賞を受賞するなど高い評価を受け、ロンドンのウエストエンドなど世界13か国以上で上演され、ゼレール自身の監督により映画化され、2023年に日本でも公開された。

今回は本作『Le Fils 息子』が東京芸術劇場 シアターウエストにて4月30日(火)まで、先駆けて4月5日(金)に初日を迎えた『La Mère 母』が東京芸術劇場 シアターイーストにて4月29日(月・祝)まで、二作品同時上演される試みだ。
東京公演の後は、鳥取、兵庫、富山、山口、高知、熊本、松本、豊橋、と全国9都市を回る。

息子・ニコラ役と父・ピエール役には、2021年の日本初演時に引き続き、岡本圭人と岡本健一という実の親子がキャスティングされた。岡本圭人はアメリカの名門演劇学校での武者修行を経て2021年に『Le Fils 息子』で初舞台を踏み、その後も『チョコレート ドーナツ』(2023年)など話題作に出演し、着実に舞台俳優としての実力を養っている。岡本健一は、第26回読売演劇大賞最優秀男優賞、第45回菊田一夫演劇賞、第55回紀伊國屋演劇賞など数々の演劇賞を総なめにし、舞台俳優としての高い実力を誇る。

そして母・アンヌ役の若村麻由美は、演出のラディスラス・ ショラーからのラブ・コールを受け、2019年の『Le Père 父』日本初演時より、この家族三部作全てにアンヌ役として出演することとなる。
さらに伊勢佳世、浜田信也、木山廉彬、と日本演劇界きっての実力派キャストが結集した。

息子・ニコラ、父・ピエール、母・アンヌは、『Le Fils 息子』と『La Mère 母』の両作品に同じ役名で登場する。しかし、両作品は別の家族を描いた作品であり、三人はそれぞれ二役を演じ分ける。

物語は、アンナがピエールに「ニコラがもう3ヶ月も学校に行っていない」と相談するシーンから始まる。ピエールは新しい家族と暮らしているのだが、ニコラを呼び寄せて一緒に暮らすことにする。

岡本圭人演じるニコラは、繊細で危うく、時に乱暴な言動に出てしまうのだが、同時にとても優しい一面をのぞかせる。ほかの登場人物も、それぞれがそれぞれの正しさを信じていて、優しく、この物語に悪役は登場しない。シンプルな舞台セットの中でぶつかり合う彼らの姿が、そんな「家族」という形の難しさを浮き彫りにしていく。

音楽や照明が静かで美しく、その分登場人物たちのその時々の心の動きが客席にダイレクトに伝わってくる。観ていると、誰か一人だけに共感するのではなく、息子や父や母、それぞれの様々な言葉や感情に自分の気持ちを重ねてしまう作品だ。

会見には、岡本圭人、岡本健一、若村麻由美、ラディスラス・ショラー(演出)が登壇し、初日を迎える意気込みを語った。

――初日を迎える意気込みをお願いします。

ラディスラス 数日前に『La Mère 母』の初日を開けたばかりなので、非常に珍しいケースでした。そのため緊張もしたんですけれども、とにかくこのチームの俳優さんたちのことを私はとても信じています。今日まだゲネプロでしたので、これからまだ正確に決め込んでいきたいこともあるんですけれども、今日のゲネプロの段階で既にストーリーテリングっていうのがしっかり出来ていて、俳優たちがしっかりとエモーションを演じてくれていたので、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

圭人 3年ぶりにこの『Le Fils 息子』が再演するっていうことなんですけど、やっぱり本当に届けるべき作品というか、この『Le Fils 息子』の物語をたくさんの方々に知っていただきたいと本当に思いますし、またこうして再演という形でお客様に届けられるのがすごく楽しみです。今回は2作品同時上演ということで、『母』と『息子』の両方を上演するんですけれども、頑張るしかないです。頑張ります。

若村 4月5日に本当に素晴らしい初日を開けることができて、ほっとして、そして間もなく明日初日という、生まれて初めての経験なんですけれど(笑)。同時上演っていうのが本当に初めてなんです。だから、4月10日にもう一度『母』が初日を迎えるような、常に初日を迎えてる感じが自分の中にあって。でもこういう心臓が飛び出るような緊張感とプレッシャーと、ときめきの中で毎日を過ごせるっていうことは、役者としてはやっぱりすごく恵まれた環境にいるんだなっていうのを感じています。

健一 もう何ヶ月もかけてずっと稽古してきたのが、明日お客さんの前で届けられるという。劇場に来てくれさえすれば、この物語の素晴らしさや大切さを感じてくれると思うので、劇場で体感してほしいなと思います。

――3年ぶりの再演ですが、稽古時に初演の時と違った点はありましたか?

ラディスラス やはり3年という時が流れたということで、私も変わりましたし、俳優の皆さんも変わりました。3年時間が経つと、人間って感じ方が変わると思うんです。装置や美術、チームは同じですが、初回のクリエイション時から3年経た今、私たちの感受性が変わっていることによって、演出に多少違いを生んだところはあると思います。そして『母』と『息子』の2作品は鏡合わせのような作品なので、この2作品を同時に上演するということが、お互いの作品に影響を与え合うと思います。

圭人 3年前は自分の初舞台で、そこから色んな舞台で経験させていただいて、またこのニコラっていう役を演じさせていただくってことは、原点に戻った感じが台本を読んだ時にありました。でもやっぱり、一番の違いは同時上演ってところですね。この『息子』の稽古をしながら『母』の稽古をするっていうのと、名前は同じニコラなんだけれども違うニコラを演じる、それがまた新しい。本当に今ラッドが言っていたように、『息子』のニコラと『母』のニコラが、演じているうちに相乗効果でお互いに成長していったりとかも稽古してて分かったんです。やっぱり片方やってると、もう一方の作品は全く考えられないんです。だから今も『母』のことなんて考えられないんですよね、今『息子』をやっていたので(笑)。でも、自分たちがっていうよりも、観ているお客様が、この同時上演という両作品を観ることによって、またこの『息子』の解釈が変わると思うんですよ。だから、3年前の『息子』をご覧になったお客様も感じ方は変わるんじゃないかと思います。

若村 3年前もすごく良いカンパニーだったんですけど、年を経て再会した今回も本当にチームワークが良いというか、信頼し合える役者、演出家、スタッフと仕事が出来ているということが本当に幸せなことだなぁと。「あ、ほんと幸せ。このカンパニーに帰ってきた!」っていう感じがあって、本当にありがたいことです。そしてやはり今回は、家族三部作の最後になります。『母』は私がすごく大変なので・・・それを息子(の圭人)も夫(の健一)も、ものすごく支えてくれていて、そこでまた信頼関係が深まって、また『息子』をやる時に家族間の距離感みたいなものが自然と培われて自分の心の中にあるな、と。とても信頼出来る人たちと仕事をしている幸せを感じています。

健一 3年前は圭人が初舞台だったから、やっぱりその感じと、3年後になって稽古に入った感じが、全然もう別の次元というか。それこそ子供の成長は早いなっていう部分をすごく感じました。

圭人 (笑)

健一 でも同じように大人も成長してないといけないな、と思ったりもしますし。この3年で世界的にも色んなことがあって、戦争が起こったりとか震災があったりとか、より家族のことを世界中が考えてるような気がするんですね。これからを担う若者、ティーンエイジの子たちにどうやって大人たちが対応していくか、そこがこの作品のすごく大事な部分なんじゃないかなと。この作品を観て気付いてほしいというか、なんとかこれからの若者たちを救うためにじゃないけれども、観てほしいですよね。

――2作品の父・母・息子は同じ名前だけどそれぞれ違う役、ということですが、それぞれどういう家族ですか?

健一 まぁ観に来りゃ分かるよ(笑)。

(一同笑い)

健一 口で説明したりとかしても、絶対に伝わらない。劇場に来て体感しないと説明出来ないのが、舞台の面白さだとも思うんですよね。ゼレールの脚本とラッドの演出が本当に世界最高のレベルにきているから、今日本でこうやって観られるってことはすごく贅沢な時間だし、これ逃しちゃうと、もうなかなか・・・もう圭人と私でやることはないと思いますし(笑)。

(一同笑い)

健一 最後ですね。なので、見逃してほしくない。

圭人 自分はやりたいんだけど(笑)。

健一 いやいや、もういいでしょ。

圭人 もういいんだ(笑)。じゃあ『息子』の再演も無い。

健一 無い。そんな先のことは考えない!(笑)

若村 次は(圭人が)『父』をやる!

圭人 次は『父』をね(笑)。

若村 一応、三部作全部出演した身として簡単に申しますと、三作品ともみんなそれぞれの主人公が喪失していくっていうことを描いている。じゃあその中にいる家族たちはそれぞれがどうするのか、っていうことも描かれていて、何度観ても見応えのある作品だなという風に思います。

――圭人さんは4月1日にお誕生日を迎えられましたが、健一さんからプレゼントは何を・・・?

圭人 言っていいんですか?

健一 言わなくていいんだよ(笑)。

圭人 この『息子』のチラシにくるんである、お金でした。

(一同笑い)

健一 現金。要は、これで好きな物買ってくださいっていうね。

圭人 でも、そのお金でカンパニー全員にかばんをプレゼントしました。だから、こう(健一から)来たものがこう(みんなに)また。ちなみに、ラッドからもプレゼントをいただいて。招き猫のマトリョーシカをいただきました。開けるとまたもう一つマトリョーシカの猫が入ってて、6個くらい開けると、最後金色のマトリョーシカが出てくる。今、飾ってます。

――若村さんは『母』のグッズとしてソーラーランタンをご提案されたということですが、きっかけは?

若村 ちょうど稽古をしていた頃に能登の震災があり、稽古の途中で私たち3人それぞれ別々のルートで能登の復興支援に行っていました。その時にソーラーランタンがとても役に立って。なので、1つ買ったらもう1つ能登に支援品として届けられる、というプロジェクトを、今回この作品に合わせてプロデュースさせていただきました。この家族三部作の作中に「私の小さな太陽」っていう、自分の愛する子どもに対して言うとても素敵な言葉があるんです。それにちなんで、「mon petit soleil(私の小さな太陽)」って私が手書きしています。

圭人 この前買わせていただいたんですけど、買ったやつは自分の・・・?

若村 買ったら1つは自分のもので、もう1つは能登に行きます。それは私が届けに行きます、自分で。

圭人 いつ?!

若村 千穐楽終わってから。すごく売れ行きが良いみたいで、すごく皆さんに応援していただけてるなと。能登には能登演劇堂という、こけら落としのときから私がお世話になっている劇場があって、3年前の『息子』でも能登演劇堂でみんな演じていて、早々にみんな支援に行ってくれてすごく嬉しかったですし、この後も私たちは能登に応援の気持ちを向け続けていこうと思っています。

――最後に圭人さんから、観に来てくださる皆さんへメッセージをお願いします。

圭人 この作品は自分にとっても特別な作品で、稽古が始まる前インタビューを受けた時に、この3年間で成長した姿を共演のキャストに見せられたらな、なんていう風な言葉を言ってたんですけど、いざ稽古をしてみると、そんなことなんて考える時間も無くて。そういうことより、やっぱりお客さんに色々感じてほしいなって思いました。そして、この『Le Fils 息子』っていう作品は「生きるか、死ぬか」ということがテーマになっているんですが、生きていると誰でもそういったことを考えると思うんです。なので、ちょっとでもこの作品を演じることで、この作品を上演することで、皆さんが生きることの大切さっていうものを考え直してもらいたいな、っていう風に今日ゲネプロを終えて思います。・・・最後に父親が締めてくれるそうです(笑)。

健一 本当に観てくれたら色々感じてくれるとは思うんですけど、すごく贅沢な時間というか。毎日稽古でみんな涙流したり汗かいて、本当に肉体と精神を使い果たして。稽古のたびになんでこんなに感情がいっぱい出てくるのか、みたいな、そういう特別な時間をずっと過ごしていたんですけれども、その感じを明日からお客さんと一緒に共有できるのが楽しみでしょうがなくて。そしてやっぱりラッドの存在はすごく大きくて、彼が居なかったらこういう作品にはなってないですし、日本ではなかなか観られない世界だと思うんですよね。そこをほんと体感してほしいな。言葉とか、映像とか、字じゃ伝わらないんですよね。だから、ぜひ劇場へ。・・・なんか最後にラッドあります? 見出しになるような。

(一同笑い)

ラディスラス フランス本国を含めてもう12年この3部作に関わっているんですが、三部作すべて日本版を上演することが出来て、すごく嬉しく思っています。そして麻由美さんがおっしゃったように、このチームがまるで家族のようになっているので、本当にこの家族三部作にふさわしいと思います。三部作を完走することによって、私たちの間に強い絆が生まれました。健一さんがおっしゃったように、とても密度の濃いお稽古の期間でした。大変でしたけれども、楽しい喜びに満ちた時間でもありました。つまるところ、この三部作それぞれの劇は、人生に似ているんだと思います。この劇をご覧になる方は、必ず自分自身をこの劇の中に見出すことでしょう。

舞台『Le Fils 息子』は4月30日(火)まで東京芸術劇場 シアターウエスト、5月6日(月・休)より鳥取、兵庫、富山、山口、高知、熊本、松本、豊橋にて上演される。上演時間は約2時間10分(休憩なし)を予定している。
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(取材・文・撮影/Encore!編集部)


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あらすじ

両親の離婚後、学校にも登校せず一日中独り行くあてもなく過ごしていたニコラは、とうとう学校を退学になって しまう。
そんなニコラの様子を聞いた父親ピエールは、離婚・再婚後、初めて息子と正面から向き合おうとする。
生活環境を変えることが、唯一自分を救う方法だと思えたニコラは、父親と再婚相手、そして年の離れた小さな弟と一緒に暮らしはじめるのだが、そこでも自分の居場所を見つけられずにいた。

公演情報

『La Mère(ラ・メール) 母』 『Le Fils(ル・フィス) 息子』

作:フロリアン・ゼレール
翻訳:齋藤敦子
演出:ラディスラス・ショラー

『La Mère 母』
出演:若村麻由美 岡本圭人 伊勢佳世 岡本健一
日程:2024年4月5日(金)~4月29日(月・祝)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
※上演時間 約1時間40分(休憩なし)

『Le Fils 息子』
出演:岡本圭人 若村麻由美 伊勢佳世 浜田信也 木山廉彬 岡本健一
日程:2024年4月9日(火)~4月30日(火)
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
※上演時間 約2時間10分(休憩なし)

▶鳥取・兵庫・富山・山口・高知・熊本・松本・豊橋 公演の詳細はこちら

公式サイト:https://www.lefils-lamere.jp

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